中国インターネット事情

ITを中心に中国の事 もろもろ

上海で発生している奇妙な不動産バブルは東京でも起こる?

上海郊外。地下鉄7号線の北側の終点「美蘭湖駅」。列車を降りると名前とは裏腹にスモッグで霞んだ空と巨大な工場跡が目に入る。工場と線路を隔てて反対側にあるスーパーの横に、ちょっとした広さの池があって結婚写真を撮影するカップルが2~3組。これが「美蘭湖」のようで、決して自然豊かな場所というわけではない。

下車した乗客たちの中には駅前の不動産屋へ向かうものがいる。平日の昼間にわざわざこんなところまで足を運んで物色するほど今の上海の不動産市場は過熱している。

都心から1時間程度の上海の地下鉄終点駅周辺では、中心部に比べまだ購入できる可能性があるということで不動産を探す人を良く見かける。それでも、60m2くらいの二部屋のマンションで240万元以上。給料が6千~7千元程度の一般人には無理のある価格になっている。ひとたび購入すれば、1ヶ月に1万元の返済が必要になってくるから、年収150万円程度では給料すべてをつぎ込んでもローンの返済が厳しい。

それでも売れるのは、絶対に上がるという予感とインフレが続くから借金しないと損という感覚が合わさって、上海の不動産なら大丈夫という確信に達しているためだろう。

地元の不動産屋に近づくと、初老の女性と営業が話し込んでいた。 「最近の相場はどのくらい?」 「最近買う人が多いから‥ドンドン上がって、何とも」 「全く、何でこんなに上がるんだろうね」 「理由は知らないけど、来月はもっと上がるから買うなら早いうちがいい」

不動産屋といえば、窓ガラスに張られた売り出し物件の価格ポスターが目に付くはずが、それらがすべて取り外されて中のオフィスが丸見えの状態になっていた。価格がどんどん上がり、書き換えるのが面倒なので掲示していないとのこと。高級店のすしネタのように完全に時価になっている。

一体誰が買うんだ! そんなの! と思うが、実際に売れている。最近、上海中に不動産屋が溢れている。上海に来て8年。こんなに不動産屋を見たのは初めてだ。購入資金の調達も親戚中から借金して足りなければ違法金融も使う。

ヘタな商売をやるより大都市部のマンションを購入したほうが儲かる。学歴も頭も金もあまりない人々が縋りつく最後の中国夢がこれだ。これまではマンション買いが素晴らしいパフォーマンスを上げてきた。わずか10年で価格は10倍近くに達している。

日本から来た身としては「それ土地神話!」 とツッコミたいところだが、本当にそれだけか? 中国の時の流れは速すぎて物事がどんどん進んでしまう。最近起こっている上海などの大都市部の不動産バブル現象をみていると、高速で回転する中国という社会が出した結論の一つなんじゃないかと思えてくる。

それは「地方はもう終わった。これからは大都市圏のみが生き残る」というもの。

農村部はもちろん地方都市でも職は少ない。報道の通り中国の景気は悪いから。日本のように農村部の票を目当てに土建工事をばら撒くとか、選挙がないからそんな非効率で無駄なことやらないし、都市部のマンションの値上がりなんかと比べれば農作物の値上がりは微々たるもので、地方への所得移転が進まない。

上海の小売価格でコメ5kgは30元(525円)くらい。日本と同じくらいの物価を誇る上海だが、主食のコメは日本に比べて圧倒的に安い。農民の影響力が小さい中国では農作物全般がかなり安く手に入る。

地方に所得が移転しないから顧客もおらず市場もない。だから仕事もナシという負のスパイラルに突入している。賑わうのは春節の時くらいで、世代が変わったら無人の荒野に逆戻りだろう。そんなところの不動産は誰も欲しくはない。

中国人は現実主義者だから即座にその解を導いてしまったわけで、それが今の大都市部での不動産爆買いにつながっている。

 

上海から比べれば、東京など首都圏の不動産は安い。日本は人口減るんだから空き家も増えるし、不動産なんか上がるかよといった感じだろう。

しかし、中国人がたどり着いた結論は日本にも当てはまるのではないだろうか。「地方はもうダメ」という結論。

経済力があればこそ土建工事をばら撒けたし、所得の移転が可能だった。それがなければ、そもそもばら撒きで生きてきた地方は立ち行かなくなるだろうし、そんな地方のインフラを維持するよりも都市部に資源を集中したほうが効率的だ。

地方が豊かになれずに高齢化しつつある「未富先老」の中国では、ばら撒きによる仮初の繁栄をショートカットして、最初からその結論しかなかったともいえる。少子高齢化と過疎化が、地方で暮らすコストを莫大なものに押し上げることになるからだ。

いままで豊かだった日本の場合、未富先老の中国のようにスパッと頭を切り替えて結論を導けるかは微妙で、地方創生やらで維持し続け、どんどん悪化させて最後にお手上げみたいな感じになるだろう。どうにもならない状態になって初めて止めることができるというパターン。ダラダラしているのでタイムラグがあるものの、結局のところ方向性は中国と一緒だろう。

中国:地方ダメ→都会に集中 日本:地方ダメ→地方にばら撒き&仮初の繁栄→経済悪化→地方ダメ→都会に集中

いずれ地方を見限ったかたちでの首都圏の不動産に対する需要が増大する日が来る。地方の価値は限りなくゼロに近づくのに首都圏は爆上げ。もし、金持ち移民を呼ぶために住宅投資ビザが解禁されれば、その流れはさらに加速する。

上海で起きている地方を見限ったバブル現象を眺めていると、日本でも都市部のみ爆上げする新型バブル現象が近づいているようにみえるし、すでに水面下では始まっているのかもしれない。