中国インターネット事情

ITを中心に中国の事 もろもろ

中国。大量の失業者を吸収しはじめたIT×人海の新産業

中心部から少し離れた郊外、上海南駅から数キロのところにある田林路では、数多くの飲食店が肉まんや麺類、小籠包など様々な料理を提供している。

小さな店ばかりなので、殆どの客が料理を持ち帰る。食べ歩き番組なら小さな店なのに美味いとか紹介が入るところだけど、このあたりは値段も味も普通だ。どう見ても平凡な飲食店街にすぎないのだけど、その周辺に群れる赤と黄色の大軍団だけは異様な雰囲気を醸し出している。

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小さな飲食店の周りに赤と黄色の軍団が電動バイクで集まっていた。何十人単位で居るだろう。その多くが若者で携帯をいじったり談笑をしたりしている。ナンバーの無いバイクばかりだけど盗んだバイクで走りだしたり青春を謳歌しているようには全く見えない。

暴走族をやって青春を謳歌しているような若者も上海には居るが、それは金持ちのお坊ちゃん連中で、飲食店前に集結するこの軍団とは全く住む世界が違うといえるだろう。

このレストラン前に居る軍団が何かといえば「百度外卖」、「美团外卖」の出前スタッフだ。仕組的には「UBERウーバー」の出前版といえばわかりやすいかもしれない。米国には「Grubhub」というものがあるのでその中国版ともいえる。

現在、中国の主要なネット企業の百度と美団がこの「IT出前」業界で覇権を競っていて、それぞれのコーポレートカラーが赤と黄色なので軍団のカラーリングも必然的にそうなっている。

サービス内容は、アプリで客から出前の注文が入ると、飲食店で頼まれた料理を買って客に届けるというものだ。出前の発達した中国では、こういう業態は昔から存在しているが、それを、ウーバーよろしくスマホのアプリでコントロールするようになったところが新しい。決済からなにから、すべてアプリ一つでOKだ。

注文用アプリを開くとレストランの一覧と配達時間が表示され、店を選択すると注文できる料理の一覧と値段がでるから必要なものを選べば注文完了となる。決済もアリペイとか微信で一発だから出前スタッフとの金銭のやり取りはない(百度の場合は百度の支払いアプリを使えば値引きがあるが、信頼性が低いので使う人は少ない)。百度と美団の企業間の競争が激しいので今のところ価格も安いし、GPSでスタッフ位置を管理しているので出前も速くて確かに使う側にとっては便利だ。

そんな便利さよりも、こんなに多くの若者が出前スタッフやっていることの方が驚いた。ヒマそうだしスタッフごとの付加価値や生産性はかなり低そうだ。給料も推して知るべしだけど、彼らに別の仕事があるかといえば難しいのかもしれない。

炭鉱や工場などで失業した地方の若者に、IT産業が新しい仕事を提供している状況なので基本的には良いことなのだろう。個人にとっては労働条件の悪化でも社会にとっては市場価値でその人間を雇って最適化ができたということになると思う。知り合いの中国人が言うには、出前産業は宅配便に続く人海産業になるのではないかということ。

ただ、このようなアプリで仕事をしている限りは豊かにはなれないし消費者になることもできない。IT時代の新たなる農民戸籍のようなものだろうか。

生きてはいけるけど、ただし最低限という状況。中国の場合、やっている人間が結構明るいのが救いかも。